2012年12月18日火曜日


周易とiPS細胞

 今年のノーベル医学生理学賞が京都大学の山中伸弥教授に送られることが決まりました。その功績はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功したことで、この道を最初に切り開いた英国の教授ジョン・ガードナー氏との共同受賞となったようです。
 iPS細胞は万能細胞といわれ体の様々な細胞へと変化増殖できる細胞で、いままでは受精卵を壊して作るES細胞(胚性幹細胞)が同じくいろいろな臓器や神経に変化していくことは解っていましたが、受精卵を用いるので研究や発展には倫理的な問題が多く伴っていました。山中教授は受精卵からではなく皮膚細胞を取り出し、そこからiPS細胞を作製する方法に成功しました。このことは難病の解明や再生医療の未来に大きな道を開き始めたようです。このiPS細胞の作製の意義と周易の存在意義に共通するところがありますので、それらを考えていきたいと思います。iPS細胞はまず皮膚細胞を取り出し、それに四つの遺伝子を入れると細胞が初期化します。それがいろいろな細胞に成長していくiPS細胞となり、肝細胞や網膜や筋肉また神経など、それぞれの機能へと変化し増殖していく万能性を発揮していきます。
 まず周易との大きな共通点は万能性です。周易は一つの思想や宗教として記されている書物では在りません。大きな見方をしますと六十四卦がそれぞれの考え方で書かれております。それは万能細胞ができた個々の臓器のようなものです。たとえば思想的にみますと資本主義的な卦は乾為天(☰☰)です。資本家として成長していく姿が各爻などに記されています。大成卦と共に君子教育といえます。反対に社会主義や共産主義的な卦は坤為地(☷☷)や地山謙(☷☶)といえます。坤為地は労働者的な考えであり、地山謙は貧しい人や弱い立場の人に施す卦で社会福祉の卦ともいえます。
 また保守の思想と革新の思想も書かれています。保守は沢地萃(☱☷)や沢雷隨(☱☳)などです。沢地萃は個人的な主張よりも大きくまた広く物事や考えを集積して古典的な精神に則って大きく組織を形成する卦です。沢雷隨は大きなものや組織に自分を合わせていく卦で大企業や大きな団体に己を一員として処す卦です。反対に革新の卦は沢火革(☱☲)や火風鼎(☲☴)といえます。沢火革は事を改革する卦ですが特に雑卦伝では旧いものは捨てるべきだと断裁しています。火風鼎は新しいものを築くという沢火革の次にあたる序卦としての意味の強い行為をいっております。共に新世界に向かっていく卦で革新の卦といえます。
 何故この様に多様な思考が周易の中にあるのかといいますと、二千年以上前の古代中国においてすでに成立していた諸子百家といわれる儒家・道家・法家・墨家・兵家・陰陽家・農家などのいろいろな思想をもって六十四卦を形成しているからです。このように周易という書物は一つの思想書ではありません。iPS細胞と同じく多様なもの(考え方)へ広がっていく内容の書物です。思想書や哲学書というものは世の中に数多ありますが、それらは一つの思想かそれに付随するものを深く探求をしています。しかし多くの考え方を一つの書物へ書き込んだものは古代歌謡などを除くとまずありません。したがって周易は万能の思考に対応するという際立った特長があります。中国の古典思想の最高峰といわれる由縁はここにあります。人間の持つ基本的な幾つかの思考や思想を広く網羅しているということになります。iPS細胞がいろいろな臓器などへと増殖するのと同様で、周易の陰陽は全ての思考に発展していきます。
 また一方ではiPS細胞に至るまでの過程も易学や特に易占に近似しているところがあります。受精卵という根元的な体細胞から万能細胞を作り出すのではなく、皮膚の細胞という特別でない細胞から万能性のあるiPS細胞を作り出すことは、易占の作業ともいえます。易学はテキストを学ぶ事が主になりますが、易占は世間の諸事一般という多くの問題が主題となり、それを占断することで周易の高次元へと到達することが可能でありまた答えとなっていきます。占った卦を学習した知識だけでなくその問題の角度から分析することで三才(天地人)という高い次元へと解析を展開できます。天はその問題の本質で、地はこれから起こる現象で、人(ジン)はそれらに対する姿勢や考え方となります。易占が対象とする世俗の多くの問題は、iPS細胞を作る元となる細胞が体中の多種の細胞から作れる可能性があることと同様ともいえます。
 また皮膚細胞に四つの遺伝子を入れることで、細胞が受精卵のように初期化しそれが様々な細胞へとなりうる能力を持っているとの事です。四つの遺伝子を入れるのは、周易では陰陽構造においての四象(老陰・老陽・少陰・少陽)といえますし、また易の意義からでは四徳の元亨利貞といえます。前者の四象においては陰陽という二つの基本から四象へ展開することによって、三画卦の小成卦へまたそれを重ねた大成卦の六十四卦へと発展をしていく元となります。また後者の四徳の元亨利貞への展開の形は、物事の意義の四季的な時間展開の基本で、やはり根元的な意味の初期化ともいえます。特に周易原文の彖辞には四徳は多く用いられており、大成卦の理解において根本的な役割を多くの卦で示しておりそこから判断方が彖伝や爻辞へと多様に展開していきます。四つの遺伝子、四象、四徳など四という数やその意義は多くの事を基本化したり初期化する数なのかもしれません。(陰陽や遺伝子の二重螺線構造などの二という数やその意義は根本過ぎてそのままでは応用しづらいのでしょう)
 またiPS細胞は細胞を初期化することでそこから多様な細胞になっていくという行為は、周易においては実占といえるでしょう。易には六十四卦という多様な考えがあるのは前述しましたが、実占においてはそれらを占者の意志で選択することはできません。筮竹を捌くという偶然を用いる行為によって卦が出現します。この偶然を用いることは人意ではなく天命を賜ることで、これらの行為は問題を偶然という零からや根元から問うことといえるので、問いかける問題の初期化といえます。易占の偶然は物事に対し人知を越え根底から問いかけます。したがって初期化は実占での筮竹や八面賽の行為といえます。そこから六十四卦に向かう多様な予言へと展開をします。一般の細胞は体の一部として特定の役割を持つ細胞になってしまうと元の初期化はしないという今までの概念を覆した研究は、周易では偶然を求めまた用いる実占行為といえます。    

 またiPS細胞は医療の現場でも期待されています。それは再生医療です。患者さんからiPS細胞を作りそれをその人の病気の治療や臓器の再生へと用いる方法です。夢のような治療法で難病で苦しんでいる方には大きな希望といえます。また難病は病気自体が一般の病気と違い個別化した症状として現れることが多いようです。その人の細胞から取り出し作られたiPS細胞をその人の治療に有効に用いることは、一般に薬という他からの一般データを基準にして治療をするよりも、本人の細胞を用いますので格段に優れた適合性といえるでしょう。これを周易の実占の角度から考えますと、卦や爻の基本的意義は理解として大切ですが、実占という現場においては《筮前の審事》や絞り込まれた《占的》の角度から得卦への再解釈が必要となってきます。卦爻の基本象意をその実占で出現した卦爻に安易に重ねても的占をするとは限りません。筮前の審事や占的には問占におけるそれぞれの社会的な背景があります。それを加味した卦読みが一番の的占となります。実占の判断は基本象意の上にそこから発表をさせ創作されたそれぞれの状況象意が乗ってこそ優れた予言となります。これは病気の治療において、本人に対し他で実験や検証された薬の関係だけの治療法と、本人の細胞から作り出されたiPS細胞を用いた本人に一番合った治療との違いともいえます。治療の中に個人や個体性を用いた新しい治療ともいえます。漢方では患者の個体性を大変に重要視しますが西洋医学では法則性を重視しますので個体としての特長が逆に軽視されてきました。iPS細胞を用いる治療法はそれらにも革新的な道を開くものといえるでしょう。易の世界でも社会が複雑になったり個人の生き方が多様化している現代では、占断も個々の問題や立場によって判断方法が多角的になってきます。これはiPS細胞を個人個人の治療に用いていく医療の個別化と同様のように思われます。
 またiPS細胞そのものが同一のものではなく個別化している部分があるということは、十九世紀後半からの現代思想への展開とも似ております。神や宗教などの古典的な絶対思想(現状の西洋的投薬治療)ではなく現在の問題や個人の立場など現象学や実存主義などといわれる人間社会や現在と相対している思想群(iPS細胞での将来の治療)と似ております。現代の諸々の問題は一つの絶対的な答えがあるのではなく、個人個人がそれぞれの問題を深めていくことによって却って問題の中から普遍性が見つかってきます。一般論や絶対的宗教を安易に持ち出しても簡単には解決をしません。この問題の初期の苦悩はニーチェといえます。言語学者のソシュールは文法を絶対化して考えずに言葉を前後の文脈よりその意義を判断しました。それが後に現象学や実存主義へと発展していきます。物理学もニュートンの古典力学からアインシュタインの相対性理論へと展開していきます。これらは絶対論から抜け出し個々への相対的な思考への発展といえます。
 繰り返すようですがiPS細胞の研究が今後発展をして医療に多大な貢献ができるようになるとすれば、難病における医療の個別的な治療という個人個人の細胞に合わせた相対的な治療へと発展をしていくのではないかと思います。
 もう一つの面で周易での問題における相対化は、占断する問題に対し前述した初期化と重なりますが、偶然という方法で卦爻を求めることといえます。偶然を用いることは、その問題に対して類型化して考えることはできません。ですから六十四卦の思考方が必要となってくるのです。易占という言葉は旧い様に感じられるかもしれませんが、実際の筮竹を用いるという偶然の行為は、その問題に対し相対的なので問占者に対する答えは個別的ともいえます。iPS細胞を用いた未来の医療と周易実占での判断法は個体化という点においてとても似ております。
 iPS細胞の研究のこれからの未来に期待を寄せると共に、周易のもつ奥の深さにも大変に驚きを感じました。山中教授の今後の研究が社会に生かされることを切に願う次第です。   (終わり)

 易学館では只今、生徒さんを募集しています。 ダイナミックな占断を味わってみませんか!
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2012年12月11日火曜日

選挙後は如何に?

 多党乱立の衆院選です。選挙後の国政如何で、兌為沢(☱☱)の三爻を得ました。毀折の卦で、相変わらず法案はなかなか決まらず離合集散もまだ続きそうです。                   この爻はだらしないものが寄っててくるので(来兌之凶)選挙前の公約はあてになりません。(位不当也)                                                       この卦は小事を合理的に積み重ねて行き、それに伴い物事をよく説明することが大切です。(説也) 感情論では通りません。(説以利貞)                                   好い事も悪いこともその内容をきちんと説明することで国民が納得していくようです。(説以先民、民忘其労)密室の談合や一方的な考えはいけません。                           其努力があれば苦しくても民衆は付いてくるといっています。(説以犯難、民忘其死)        説明や議論を嫌がらず、それでいて解り易い内容で諸問題に答えていこうという姿勢が重要です。(君子以朋友講習)                                              大きな政策よりも細かい配慮のある政策が必要になってくる時代のようです。(兌、亨利貞)    国民も政治への無関心はいけません。理解できることから学んでいく事も大切です。(説之大、民勧矣哉。 朋友講習)  
 大局も大切ですが政治家の方々、小さな事にも労を惜しまないでください。(麗澤兌)